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第8章 認知症と社会保障
1.要介護認定
介護保険制度は、本人の選択により、できる限り自立した日常生活を送ることができるように、必要な介護サービスを総合的且つ一体的に提供するシステムです。この要介護或いは支援状態の程度を判定するのが、要介護認定で、保険者である市町村に設置される要介護認定審査会で判定されます。要介護認定は介護サービスの給付金に結びつくことから、その基準は全国一律に客観的に定めているとなっていますが、実際はいかがでしょうか?
介護サービスの必要度の判定は、コンピュータによる一次判定(認定調査をもとに判定)と、それを原案として保健医療福祉に関する学識経験者が行う二次判定の二段階で行われます。認知症、あるいは軽度認知障害と診断されたら、早急に介護認定の手続きを促しています。認知症患者は、四肢の麻痺等の障害もなく。一見、何の問題もなく見えてしまいますが、個人的には、認知症と診断されれば要介護状態と考えています。認知症の進行を抑えるためには、「人と接すること」が重要と考えており、デイサービスやデイケア等の利用を勧めています。
利用を拒否する場合もありますが、辛抱強く勧めるしかないと考えています。
2.自立支援医療、精神障害福祉手帳
認知症は精神の疾患に分類され、自立支援医療の対象になります。特に若年者や高齢でもある程度の所得がある患者さんは、医療費が2割~3割負担となっています。治療を継続していく上では、自立支援医療を申請することで、外来通院に関しては1割負担で済むようになります。医療機関が、自立支援医療の登録をしているかどうかが問題となります。
認知症の進行によっては、精神福祉手帳が交付されます。川崎市では精神福祉手帳1級になると、すべての外来診療費の窓口負担がなくなります。
このような制度に関しては、把握していない医師もいます。医師会の講演会等では説明していますが、周知はされていないかもしれません。
3.障害年金
若年性認知症の患者さんに関しては、この制度を理解しておく必要があります。認知症と診断された日における加入保険によって、年金額が異なります。
4.高齢者虐待防止法
虐待には、(1)身体的虐待、(2)ネグレクト(著しい減食・放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置)、(3)心理的虐待、(4)性的虐待、(5)経済的虐待(高齢者の財産を不当に処分したり、不当に財産上の利益を得たりすることで、親族による行為も該当)、の5つが規定されています。発見したら、地域包括支援センターと一緒に対処して下さい。
5.成年後見制度
法定後見制度は、判断能力が不十分な時に、申立により家庭裁判所によって選任された後見人等が本人に代わって財産や権利を守り、本人を法的に支援する制度です。医師の診断書、場合によっては鑑定書が必要になります。
さまざまなタイプの認知症がありますが、近時記憶障害が顕著な場合に関して述べます。認知症であっても、言語に問題がなければ、ある事柄に対する意思表示・決定はその場ではできると考えています。
しかしながら、本人がその決定内容を覚えていないことが問題になります。何度確認しても同様の決定内容であればいいのですが、状況によって判断・決定内容が異なる可能性もあります。そのため、近時記憶障害が顕著な認知症の患者さんは、軽度であっても、基本的には後見相当と診断・鑑定をしています。
6.運転免許
75歳以上の方が運転免許を更新する際に、認知機能検査を受けることが義務づけられています。そのテストで基準点をクリアできないと、診断書提出命令が送付されてきます。それに対して、軽度認知障害と診断した時など、非認知症の診断名で診断書を作成した患者が事故を起こした場合、作成した医師に法的責任を問われることはないでしょうか?
臨時適性検査および診断書提出命令に係る診断書作成は医師により行われますが、免許取消し等は都道府県公安委員会において判断されます。公安委員会が判断するに際し、主治医の診断書により判断できない場合は、再度、専門医の判断を実施することがあります(警察庁丁運発第210号 平成28年11月16日, 警察庁交通局運転免許課長)。したがって、医師がその良心と見識に基づき診断を行い、その診断に基づき作成した診断書について、診断書作成医師に刑事上の責任が生じることはありません。しかし、民法上の責任はこの限りではありません。簡単に言うと、認知症が疑わしい患者さんに関しては、安易に認知症ではないという診断書は作成できないと言うことです。
おわりに
認知症に関しては、加齢とともに増加する疾患であり、避けては通れない現実として受け止めるべきだと思います。新しい薬の開発も期待されてはいますが、基本的には極早期の認知症治療に限られます。
認知症患者は2025年(4年後)には730万人に及ぶと言われています。医療・介護従事者が共通認識を持つことで、認知症患者、その家族が少しでもうまく生活していけるような助言・協力ができることを願っております。