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第5章 アドバンスト・ケア・プラニング(ACP)を実践しよう!
1.人生の最終段階の医療について
日本人の平均寿命は世界でもトップクラスですが、大切なことは、「いかに健康で生活できる期間を延ばすか」です。年齢を重ねて徐々に体が弱ってきている(フレイル)と自覚する時期に、地域社会とつながりを持ち、適切な栄養をとり、体を動かすという努力をすることが勧められます。これをフレイル対策といいます。介護予防の観点からは重要な時期です。
しかし、重い病気となり回復が期待できない場合に、命を長らえる処置が行われることがあります。
①食事ができなくなった場合に人工的な栄養補給として胃に管を通して栄養を入れる胃瘻
②点滴で栄養を入れる中心静脈栄養法
③呼吸ができなくなった場合に人工呼吸器をつける
などいわゆる延命の処置があります。
ここで、重要なのは回復ができない状態であると判断できる医師がいるかと言うことです。これは、なかなか困難です。本人・家族と信頼関係を結び、しっかり意思疎通ができている医師が必要となるでしょう。高齢者の場合、生理的な寿命から考えても、それほど長く生きられるものではありません。何歳で最終と考えるかはそれぞれ異なりますが(特に人生100年なんて言ってしまうと、100まで何とか生かせとなるのでしょうか?)、条件を作り意思決定をしておくことは重要と考えます。
自分がこれらの延命処置を希望するかどうかは、あらかじめご家族やかかりつけ医などと話し合っておくことが将来を見据えたご自身の生き方にも関わってきます。但し、人工的な栄養を希望しない場合では、医療機関に入院して看取ることは基本難しいと理解して下さい。在宅や施設で行うことが良いと考えます。
2.人生会議 ACP
将来の人生をどのように生活をして、どのような医療や介護を受けて最期を迎えるかを計画して、ご自身の考えを心づもりとしてご家族や近しい人、医療やケアの担当者とあらかじめ表しておく取り組みをアドバンス・ケア・プランニング(ACP)といいます。愛称として「人生会議」と呼びます。環境や体調の変化により、繰り返して話し合いを行うプロセスでもあります。
先にあげた事前指示書と異なる点は、事前指示書は自分の思いをあらかじめ提示しておくことが主なポイントですが、人生会議 ACPはご家族や医療やケアの担当者と話し合って確認するという行為が大事な点です。今後の人生をどのように過ごして、どのような医療やケアを受けたいかをご家族や専門職との話し合いの中で決めて記録に残すとよいでしょう。
このプロセスは、定期的に見直され、ケアに関わる人々の間で共有されることが望ましいことです。その話し合いの主題は、患者本人の気がかりなことや意向について、患者の価値観や目標、病状や予後についての理解、治療や療養に関する意向等です。
認知症の問題点は、全身の機能の低下した時期が長く続き、死亡まで機能が全体的に緩やかに低下してくるため、いつからが終末期か不明確になります。
一つの流れとして、ケアマネージャーから認知症の人のACPを実施する場合の流れとして、
①病状について尋ねる。
・お医者さんからどのように聞いていますか?
・今後の治療についてどのように説明されていますか?
②話し合いの導入
・万が一のことを考えてお聞きします。病状の進行のために身の回りのことができなくなったときのことをお考えになったことはありますか?
・もしもの時のことについて、これから相談していきたいと思うのですがよろしいでしょうか?
③代理決定者の選定
・認知症の場合は、主介護者が代理決定者になる可能性が高いので、話し合いには必ず同席をしてもらうことが必要です。但し、一人暮らしの場合は、ケアマネと包括職員等で一緒に話し合いを持つことも必要と思います。
・病状によっては、病気の治療やケアについて、ご自分で決めることが難しくなる場合があります。そのような場合、あなたになりかわって、治療などの判断ができる方はどなたになりますか?
④療養や生活での不安・疑問を尋ねる。
・病気や治療のことでわからないことや不安なことはありますか?
―よろしければそのことについて詳しく教えて下さい
―そのことについて、先生に相談したことはありますか?
⑤希望・大切にしていること、してほしくないことを尋ねる
・生活の上で一番大切にしていることはどんなことですか?
・今後どのようなサービスを受けていきたいか具体的な希望はありますか?
・逆に今後これだけはしたくないということはありますか?
・それはどうしてですか?具体的に教えて下さい。
⑥施設入所に関する考え方、命に対する考え方を探索する
・万が一、身の回りのことができなくなった場合に、施設に入所することに抵抗がありますか?もしあるのなら、どうしてでしょうか?
・万が一、昏睡状態になったり、治療が困難な病気になったりした場合に、延命措置を希望しますか?
以上のような問いかけが役に立つかもしれません。認知症の人の場合、このような話し合いを持ったことを覚えていないと思います。定期的に何度も聞くことで、本人の基本的に持っている考え方を知ることができると思います。