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第6章 アルツハイマー型認知症早期診断の戦略
1.認知症の啓発活動
認知症を発症前に発見するためには、認知症の啓発活動が必要となります。認知症に関わる学会が協力して、認知症の啓発をし、気軽に受診できるようにしなければなりません。認知症の早期は本人自身が記憶力の低下に気づきます。これは、主観的記憶障害(subjective cognitive impairment; SCI)と言われており、この時点での介入が必要と考えます。啓発活動により、早期受診・早期診断に繋げる必要があります。
また、記憶の低下を自覚し受検した人に対しては、極力「正常である」とは言わず、「今のところは大丈夫」という表現にとどめるなど、的確に誘導するための指針を作成する必要があります。
2.認知症診断における画像検査の限界を知る
認知症の診断に、MRI・SPECT等の画像検査の活用は有用ですが、必ずしも特徴的な所見が認められるわけではありません。
早期認知症の診断に際しては、海馬の萎縮や脳血流検査での異常はまず見られないと考えてください。医師は画像検査の限界を知り、このことを被験者に十分理解してもらうことも重要です。認知機能は加齢とともに低下するものであり、経過観察が重要であることを説明する必要があります。
医師が画像を示して、「大丈夫」と言ってしまうと、時として重要な受診機会を奪ってしまう可能性があります。安易な言葉がけは、特に認知症に関わる場合は慎むべきと思います。
3.認知機能検査の限界を知る
一般的に改訂長谷川式簡易知能検査(HDS-R)やミニメンタルステートテスト(MMSE)などが実施されます。しかし、ごく軽度の近時記憶障害を検出する能力は低く、早期の認知症を診断するのは難しいと考えます。
また、教育歴の長さによって点数に相関があるとも言われています。そのため、脳ドック等で簡易に行うことが可能な、記憶に特化した検出力の高い検査法が必要になります。
対象者を吟味してADASを行うことも一つの手法と考えますが、検査時間が長くなり、多人数のスクリーニングには向かないと考えます。
4.髄液検査を積極的に実施する
アルツハイマー型認知症を確定診断する上では、侵襲はありますが、コストが低く、最も感度が高い検査です。
リン酸化タウは保険収載されていますが、アミロイドβは保険収載されていません。リン酸化タウ単独での診断精度は若干落ちるようです。
脳ドックでの利用では、アミロイドβ42・40を含めて検査をすることが可能ですが、検査実費として20,000円ほどになります。
5.遺伝子検査の利用
アポリポ蛋白Eは、アミロイドβの沈着に関わる遺伝子と言われており、それを解析することで、アルツハイマー型認知症のリスクを判定することができます。ApoEの遺伝子型にはε2,ε3,ε4が二つ一組で6パターンの遺伝子型を構成。
ε4を1つ持つ人は、日本人で最も多いε3を2つ持つ人より3.2倍、ε4を2つ持つ人は11.6倍アルツハイマー型認知症になりやすいと言われています。