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はじめに

認知症は今後も増えていくことが確実視されています。約3年前に始まった新型コロナ感染症のため、認知症患者の医療介護にも影響が出ています。施設によっては受け入れを停止したり、面会制限をしたり、認知症患者の環境は激変しているのが現状です。

中根 一

第1章 認知症についてどこまで知っていますか?

1.認知症とは
認知症という病気は、正常に社会生活が出来ていたのに、何らかの原因で認知機能が低下し、社会生活に支障をきたす疾患です。言い換えれば、認知症は総合的に脳の機能が落ちてくる状態と考えてください。

記憶障害:新しいことを覚えられないのが主症状で、過去の記憶は残っています。
見当識障害(見当識障害):日付、場所等がわからなくなります。
判断力の低下:女性では献立が立てられない、男性では機器の操作ができない等の症状がみられます。

重要なのは、早期に発見することです。このような症状が明らかになったときには、症状は相当に進行しています。
早期に発見するためには、どのようにしたら良いのでしょうか?

2.認知症の疫学
認知症の有病率を下記に示します。認知症の頻度は加齢とともに増しています。この図から読み取れることは、
① 加齢とともに認知症は増加し、90歳以上では認知症は多数派である。
② 女性の方が、同一年齢では認知症になりやすい。平均寿命まで生きると、約半数は認知症である。
このことから、認知症は加齢とともに増加する疾患であり、罹りたくない疾患とは言われていますが、老化と考えても差し支えないともいえます。年齢の線引きは困難ですが、私は75歳未満で発症する認知症は少し早すぎると感じており、「人生100年時代」の若年性認知症として扱います。

3.認知症の診断
もの忘れ外来では、何をするのでしょうか? 外来は基本的には、家族と受診してもらっています。包括職員・福祉課職員・ケアマネジャーと来院する場合もあります。ある程度進んだ認知症では、日常生活の状況を説明する人がいないと困ります。あらかじめ記入してもらう問診票は役に立ちます。 次に、認知症かどうかの判定のため、認知機能の評価をします。認知機能低下が疑われる場合、その原因を精査します。認知症はさまざまな病気で起こるため、鑑別診断(原因疾患を特定する)ことが必要になります。

認知症を来す疾患の頻度は、図のようにアルツハイマー型認知症が最も多いことが知られています。
このことから、認知症というとアルツハイマー型認知症を考える人が多いようです。
 アルツハイマー型認知症が半数、次にレビー小体型認知症、血管性認知症が原因としてあげられます。この3つの認知症を基本的に鑑別できれば良いと考えます。

次に、各疾患の診断に関して述べていきます。

(1) アルツハイマー型認知症
認知症の多くは脳内にゴミ(異常タンパク質)が蓄積することにより発病します。アルツハイマー型認知症では、老人斑(アミロイドβ)と神経原線維変化(リン酸化タウ蛋白)の蓄積により、神経細胞が死んでいくと考えられています。特にアミロイドβの沈着は、発病の約20年前から起こると言われています。
アルツハイマー型認知症の診断にMRIや脳血流検査が用いられています。MRIでは海馬の萎縮がアルツハイマー病の特長と言われていますが、早期を診断するのには向いていません。海馬が萎縮する時には認知症はかなり進行していることが多いからです。また、脳血流検査も効率よくアルツハイマー病を診断できるわけではありません。

(2) レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、パーキンソン病と兄弟疾患です。同じメカニズムで起こると言われています。神経細胞内に別のゴミであるレビー小体(αシヌクレイン)が溜まる病気です。特徴は、
① 認知機能の変動:冴えているときと落ちているときの差が激しい
② 幻視:見えない物が見えるという。(例えば、人とか虫とか)
③ パーキンソン病症状:振るえ(振戦)、体の硬さ、表情の乏しさ、転倒のしやすさなど
④ REM睡眠行動障害:寝言を言ったり、夜中起き上がったりする。
認知機能障害を有し、以上の4項目のうち2つ以上に該当すれば、レビー小体型認知症の可能性が高いと言われています。

(3)血管性認知症
脳血管障害によって引き起こされる認知症であり、急激に発症した認知症では可能性が高いと考えて下さい。例えば、昨日までしっかりしていたのに、今日突然、認知機能が低下しているなど、急に発症する認知症は、まず血管性認知症を考え、もの忘れ外来の予約ではなく、救急外来を受診して下さい。
その他、さまざまな認知症がありますが、その診断は専門医でも困難な場合があります。
重要なことは、加齢とともにさまざまな以上蛋白が蓄積することにより、単一の疾患ではなく、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症が合併したり、血管障害とアルツハイマー型認知症が合併する場合もあります。

(4)特発性正常圧水頭症
認知症の1割がこの疾患と言われています。当院では特発性正常圧水頭症を積極的に治療しています。特発性正常圧水頭症は、原因が不明ですが、①歩行障害、②認知症、③尿失禁が進行していく疾患です。
歩行障害を伴う認知症の患者さんは、是非ご紹介下さい。

治療は下図のようなシャント手術を行いますが、当院では右の腰椎―腹腔シャントを基本的に行っています。

 
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